第87回佐渡充高のワールドツアーリポート

不調にあえぐ“鉄人”ビジェイ・シン・・・その原因と今後を探る!
タイガー、ミケルソンと共にゴルフ界をリードしてきたシンに異変が!
タイガー・ウッズ、フィル・ミケルソンと共にビッグ3の一人としてプロゴルフ界をリードしてきたビジェイ・シン(47)。世界ランク1位、賞金王、米ツアー34勝、世界で22勝、マスターズや全米プロ選手権のメジャー3勝など数々の金字塔を打ち立ててきた偉大な選手だ。
ところが、このところ不調にあえいでいる。今季3月のホンダ・クラシック4位で復調の兆しをみせたが、その後は逆戻り。結局12試合出場で予選通過したのは半分の6試合。世界ランクも約17年ぶりに50位から外れ、時間の経過とともにジワジワと下降を続けている。
5月のワコビア選手権で81。メジャー以外でこれほどの大叩きは衝撃だった!
南国の楽園フィジーに生まれ、8歳の時、飛行機整備士の父のキャディーをしてゴルフに出会い、レッスン書だけで独学でスイングをつくりあげた。わずか15歳で母国のオープン競技に優勝し、プロツアーに勝つことを目指し17歳でプロゴルファーになったものの、アジアや欧州で長い試練の時をすごし、生活のためロンドンのバーで用心棒をした時期もあった。
ひたすら夢を追いかけて激しい練習を重ね、ようやくツアーメンバーに。練習はよりハードになり、いつしか「練習の虫」「鉄人」という代名詞がついた。が、疲労、怪我、故障を抱えプレーを続けていたのだ。
シンは酒もタバコも大嫌い。休日ができても遊びにでかけようとも思わない。趣味でさえゴルフ本の読書であり、すべてをゴルフに捧げてきた。そんな約40年の歳月に大きな変化の時がおとずれている。
僕が初めてシンの弱音を聞いたのは当時43歳、06年3月だった。「2月に欧州ツアーの中東2試合に参加したのが失敗だった」と後悔し、珍しくその週の試合を欠場したのだ。
その後もやや異変が続いた。彼はボギーも少なく、大叩きなどはめったにしない選手だが、5月のワコビア選手権最終日に何と6ボギー、1トリプルボギーで“81”。ワーストスコアは99年全英オープン(カーヌスティー)2日目の84だ。それ以外にも96年マスターズ4日目82、00年全米オープン3日目80などがあるが、これらはすべて難コースのメジャー・トーナメントでのスコア。ツアー競技の“81”は“事件”といってもいい衝撃だった。
“鉄人”と言われるシンだが疲労と怪我で満身創痍。限界ギリギリだった!
ハードワークによる疲労が誘発したのか、怪我や故障も相次いだ。07年3月、ポッズ選手権の前に飼い犬(大型犬)の喧嘩の仲裁に入り右足首を捻挫。最初はあまり痛みを感じなかったが、次第に腫れが激しくなり、しばらくプレーができなかった。
翌08年3月のインドオープンの際には食中毒と風邪で4日間寝たきり、1週間で8キロの激ヤセ。5月に行われた欧州ツアーのBMW選手権では左胸筋に痛みが走り欠場。原因は月曜にロンドン到着、寒い中、十分なウォームアップをしないで練習したことだった。09年は元気な姿を期待していたが、開幕戦の後に膝の手術を受け5週間の休養。中盤から復帰したもののシーズンオフの11月に再び膝の手術を受けワールドチャレンジを欠場した。
膝が良くなったと思ったら、今年は腰痛だ。3月のフロリダシリーズ初戦のホンダ・クラシックで4位入賞した後のトランジションズから3試合連続で腰痛を理由に棄権。これはシンのゴルフ人生で初めてのことだった。
治療に高気圧酸素カプセルを導入するなど積極的に取り組んでいるのだが・・・
もちろん、シンは自身の変調を十分認識し、良いと思われる治療を積極的に取り入れた。07年頃から高気圧酸素カプセルを使い始めた。このカプセルは血液や体液に溶け込む酸素の量を増やし、身体の隅々まで酸素を行き渡らせる効果がある。その結果、新陳代謝が高まり疲労物質の乳酸の分解が促進される優れたマシーンといわれている。効果を実感しているのか、携帯型とはいえ重さ30キロもあるカプセルを試合に持参し転戦している。
クラブへの工夫も試みてきた。07年の全英オープンでロフト32度のウッドを試していたのが象徴的だ。ロフト32度は7番アイアンに相当し、いうなれば12番ウッドといったところか。深いラフ対策と衰えはじめたパワーを補うのが目的だった。09年は18年間所属していたエージェントとの契約を解消し、新たな会社に移った。85年に結婚し苦労を共にしてきたアルデナ夫人との関係にも変化が感じられる。数年前から試合会場に夫人の姿はなく、最近は白人女性が彼のプレーを見守っている。
メジャー連続出場も全米オープンで途切れるところだったが何とか免れた!
そして、復調できないまま今年の全米オープン出場への出場は難しくなり、記録更新を続けてきた63というメジャー連続出場も途切れそうな状況だった。ところが、主催する米国ゴルフ協会(USGA)から特別招待選手として招かれることが決まり、かろうじて連続記録を続けることができるようになった。しかし、復調ならない限り、いずれ連続記録が途切れてしまうことは確実。
今後、シンはどうするのか?これまでシンはメンタル面のトレーニングにと禅を学び、実践してきた。かつてグレッグ・ノーマンが不調に陥った時、「カップのお茶(気持ち)を一度カラにして、もう一度新たに注ぐ」という禅の言葉に影響を受けたと言っていたことを思い出す。
50歳を目前にした身体と心に訪れた変化に果敢に挑みつつ、禅の言葉からも何かを学び、今一度、全てをリセットしてシンが再び元気な姿を見せてくれることを願うのは僕だけではないだろう。一人の偉大なゴルファーの今後の生き様を丁寧に見守っていきたいと思う。



