
アーニー・エルスがツアー2連勝。苦悩の5年を経て見事に復活!
フロリダ州シリーズ4連戦のうち2勝。より強くなって復活のノロシ!
約5年の時を経てアーニー・エルス(40)がより強く大きくなって復活のノロシをあげた。3月の世界選手権のCAチャンピオンシップで2年ぶり米ツアー17勝目を飾ったのだ。
最終日、最終組で一緒にプレーした対戦相手はエルスの設立したゴルフ基金で育った同じ南ア出身のシャール・シュワーツェル(25)だった。この師弟対決は前半こそデッドヒートの展開だったが終盤は師のエルスがバーディー攻勢をかけ、可愛い弟子に勝ち方を教えるかのような4打差の勝利だった。
エルスのホールアウト直後の第一声は「もう40歳。勝ててこれほど嬉しいことはない」。短い言葉だったが、低迷の日々に味わっていた試練と苦悩がにじんでいた。
快進撃はさらに続いた。翌々週のパーマー招待でも逃げ切りで通算の18勝目と連勝。フロリダ州シリーズは4連戦行われるが、そのうち2試合で優勝し、シード権制度が始まった1983年以降4人目という快挙となった。
エルスの米ツアー参戦は94年で初優勝が同年の全米オープンだった。メジャーで初優勝という華々しいスタートで一躍脚光を浴びた。97年には2度目の全米オープンのタイトルを獲得、02年には全英オープンで優勝し世界ランクも常に5位以内を維持。米国外でも44勝し、エルスは6歳下のタイガー・ウッズとツアー界で双璧をなす構図を造り上げた。
ヨット事故による左膝十字じん帯断裂、そして息子の自閉症が発覚と悲劇が・・・
世界屈指のトッププロとなったエルスに突然ブレーキをかけたのはヨットの事故だった。05年7月17日、家族旅行で訪れた地中海でヨットのセイリング中に左ひざ十字じん帯を断裂。翌日に手術を受け、執刀医は「膝が動く際に大切な動きをしている箇所。このようなケガはサッカー、ラグビーのような接触プレーを伴う競技で多く見られる。2カ月後に何とかクラブが握れ、本格的なプレーは11月中旬からだろう」と診断。
12月中旬に欧州ツアーの試合で復帰したが、米ツアーの優勝は08年3月のホンダ・クラシックまで4年半の歳月を要した。本人は「ケガは問題ない」とは言っていたが、プライムタイムの輝きは次第に薄れていった。
復活に向けて試行錯誤を繰り返す中、ある出来事がエルスの家族に起こった。長男ベン(02年10月生まれ)の成長に疑問を感じ検査を受けたところ自閉症であることがわかった。
自閉症とは先天性の脳機能障害で症状は3歳くらいまでに対人相互反応の障害、意思伝達の異常、またはその発達障害などが現れるといわれ、正確な原因や治療方法についてはまだわかっていない。
エルスは何不自由ない家庭に生まれ育ち、プロゴルファーとしてのキャリアも申し分なく、長女サマンサ(現在10歳)が幼い頃に米ツアーのプロモーションビデオで父娘共演するなど順風満帆。大きな悩みやトラブルとは無縁のような人生を歩んでいた。それだけに息子の自閉症がなかなか理解できず「人生に大変なことが起こってしまった。子供や家族に申し訳ない思いで一杯になった。どうしてこのような悲劇が小さな子供に巡ったのか…」とリーズル夫人と途方に暮れたという。
息子の自閉症を公表後、基金を設立してチャリティートーナメントを開催!
しかし、約1年後、エルス夫妻は決心した。08年3月、フロリダ州タンパで開催されたポッズ選手権の記者会見でベンの病気を公表したのだ。すると、ものすごい数のメール、手紙などが届き、どこへ行っても声をかけられるなど反響のあまりの大きさに驚いた。家族の気持ちが落ち着くと思い公表したのだが、思ってもいない気持ちの変化が訪れた。「むしろ、病気に対する理解や研究のためにも僕たち家族がもっと世の中に出た方がいいのではないか」と・・・。
そこで昨年3月にエルス夫妻は自閉症基金を設立し、さっそくチャリティートーナメントを開催。協力者はジャック・ニクラス、ゲーリー・プレーヤー、グレッグ・ノーマン、レイ・フロイドらそうそうたるメンバーで72万5000ドル(約7000万円)の基金集めに成功、エルスの人柄を感じさせた。
今年は優勝した世界選手権の直後に開催し、スティーブ・ストリッカー、同郷のローリー・サバティーニ、シャール・シュワーツェルらがシンボルカラーの黄色のシャツやベストを着用し参加。選手の夫人たちもかけつけ、さらに盛り上がった。
今後の目標はグランドスラムと自閉症の子供達のための総合施設の設立・・・
エルスは人生の大きな目標が2つできた。ゴルフにおいてはマスターズと全米プロ選手権に勝ちグランドスラムを達成することだ。「全英オープンでの59歳トム・ワトソンの活躍、昨年、親友リー・ウェストウッドが36歳で賞金王と彼らの姿に心を動かされた」。自信と意欲に溢れたアラフォーのエルスが世界ナンバーワンになる日が来る可能性は十分にある。
もうひとつは自閉症の人たちのための総合施設の建設だ。名称は「オーティズム(自閉症)センター・オブ・エクセレンス」で3?21歳までを対象。教育プログラムをはじめ専門医、スピーチセラピストなどを招き、かつてないほど充実した自閉症子供学校を目指す。2年後に完成予定で「残りの人生をこの仕事に捧げたい」と固い決意だ。夫人も「最初は悩みましたが、今はこの活動から毎日何かを学んでいて、プライスレスな喜びを噛みしめています」。エルスといえば誰も真似できないようなダイナミックでゆったりしたスイングの持ち主。近くで見ると以前にも増して驚異のパワーとコントロールが絶妙にブレンドされている。その迫力あるスイングはエルスという男の生き様そのものを投影しているように感じるのである。