第83回佐渡充高のワールドツアーリポート

祝!ジャック・ニクラス70歳
その偉大さを改めて痛感 そして乾杯!
ニクラスは半世紀もの間、時代や世代を超えた真のスーパースターだ!
ジャック・ニクラスが1月21日で70歳の誕生日を迎えた。その直前には久しぶりにトム・ワトソン(60)と新旧帝王の最年長組で試合に出場。フレッド・カプルスとニック・プライス組らを退け優勝を飾ったが、ニクラスの今も変わらぬ圧倒的な存在感、勝負にこだわりプレーに集中する姿に改めて凄みを感じたものだ。
私がゴルフを始めたのは約37年前。世間では「高校生でゴルフは贅沢だ」と言われていた時代だったが、ニクラスのレッスン書を読みふけって頭に刻み込み、彼のようなアップライトなスイングを一心不乱に目指したものだった。ビデオもテレビ中継も乏しい時代、ビジェイ・シンらもニクラスの書籍だけを頼りにプロを目指したという。
当時、ニクラスが使っていたドライバーがマクレガーのターニーシリーズ。テレビで見た時のショットの迫力とパーシモン(柿の木)の芯を食った音には心底痺れた。現代のドライバーは金属製だが90年代半ばまではヘッドは木製。いつかあのドライバーを使ってみたいと憧れたものだ。
空前のワンポイントウエアやグッズのブームの頃はアーノルド・パーマーのシンボルである傘マークとニクラスのニックネーム“ゴールデンベア”の熊マークは試合同様に人気を二分。日本では自動車やテレビなどのCMにも登場し、ゴルフの認知度を大いに高めた。
米国のスーパースターがゴルフ以外でも優れていると実感したのは1980年の全米オープン、青木功との優勝争いでのことだった。青木選手の活躍に興奮し、そしてニクラスのある行動に感動して鳥肌が立ったものだ。
最終グリーンでニクラスが優勝パットを決めた瞬間、グリーンサイドのギャラリーが狂喜しグリーン上に駆け上がろうとした。ところがその時、まだ青木選手のパーパットが残っていた。するとニクラスは、咄嗟に身を挺して青木選手のパットを守ったのだ。
1961年にプロになって約半世紀が経つ。世界で113勝、PGAツアーではメジャー18勝を含め73勝。ゴルフ場設計は世界に340コースを超え、ジュニア育成をはじめ、社会貢献活動は数え切れないほど。
99年にはマイノリティーゴルフ協会から「ファーザー・オブ・ザ・イヤー」を受賞、04年にはニクラス小児病院を開設、05年にはプレジデンシャル・メダル・オブ・フリーダムを受賞。これは一般人が得られる最高の賞だ。今も輝き続けるニクラスの魅力は、青木選手のパットを守った、あのスピリッツを貫き通してきたからだと改めて感じる。
過去には知られざる試練も。そして現在の繁栄は家族の支えあってこそ!
順風満帆に見えるキャリアだが、多くの試練があった。ニクラスはオハイオ州で薬局を営む家に生まれ、ゴルフ好きの父親の勧めでクラブを手に。全米アマなどビッグタイトルを獲得後、大学を中退しプロになった。
しかし、ツアーに入ってからの数年は悪役の存在だった。62年の全米オープンでアイドル級の人気を誇ったパーマーをプレーオフで破り優勝した時には太り気味の体型から「オハイオの豚」とまで言われたほど。
そのような状況の中でも勝ち続け、次第に人柄を理解されるようになり、プロ転向5年目にグランドスラムを達成。その時を境にゴールデンベアというニックネームで呼ばれるようになったのだ。
時に悲鳴をあげる肉体との闘いもあった。04年の米ゴルフ誌のインタビューで13歳の時にポリオを発症したことを告白。ポリオとはポリオウイルスによる感染症で脊髄性小児麻痺とも呼ばれ、最初の症状は発熱、頭痛、吐き気、下痢で、数日後突然手や足が動かなくなる疾患だ。
ニクラスは「初めは風邪かと思っていたら違った。関節が硬くなるのを感じ、痛みを伴い、伝染した妹は一年ほど歩行困難だった」と語った。その後遺症で全盛期に時折、激しい腰痛や首痛に悩まされ、今も再発するのではという不安を抱いているという。
40歳を過ぎてからは股関節痛に苦しみながらもトーナメントに出場し続けて積み上げた戦績だ。すべてがスムーズに、というのはあり得ないことであり、スーパースターか否かというのはトラブルをいかに乗り越えるか、ということにある。
ニクラスはバーバラ夫人との間に5人の子供、21人の孫に恵まれた。子供たちは全員、ニクラスのビジネス面での責任者として活躍中だ。ビッグファミリーの扇の要はバーバラ夫人だ。公私に渡る尽力なしにニクラスの今の繁栄は語れない。
ツアーの夫人会を立ち上げ、精力的にチャリティ活動をスタート、私的にも選手夫人のよき相談相手として尊敬される存在だ。ニクラスの体調を思い、試合中は必ず手作りの健康食を作り、ロープの外からそっと手渡す様子を数え切れないほど見てきた。大切に築き上げてきた一家の結束と強い絆はニクラスのゴルフキャリアとオーバーラップする。
タイガー、ミケルソンの失速で思うニクラス・スピリッツの偉大さを!
ツアーは新規則のアイアンを巡る騒動で揺れている。フィル・ミケルソンが抜け穴といわれるウエッジを使用し、「認可されているから問題なし」から「モラルに反する」と論点が発展し、選手間の感情にまで摩擦を起こした。もしニクラスやパーマーだったらどうしただろうか。きっと、使うことがなかっただろうし、むしろ率先して「使わないようにしよう」と言っていたと思う。
タイガー・ウッズも昨年からのスキャンダルを引きずって解決への糸口が見えないまま。ゴルフ界をリードする世界ランク1位と2位の選手に、スーパープレーやスコアだけではなく清々しいスピリッツがあれば、と思わずにいられない。
来年はプロ転向50周年。ますます輝きを増す70歳のニクラスという存在はゴルフ界の誇り、喜びであり、そして救いでもある。



