医学講座■免疫臓器としての消化管における腸内細菌の関わり(1)
大阪大学大学院医学系研究科 生体機能補完医学講座 教授
伊藤壽記(医学博士)
Toshinori Itoh
免疫というのは、人間にとって極めて重要な働きです。その免疫の役割を果たしている臓器の消化管はどういう働きをしているのでしょうか。腸内細菌との関連性を伊藤教授に説明していただきました。
消化管の免疫という役割
皆さんは消化管の働きといえば、食べ物を消化して我々の体のエネルギー源となるものを吸収するということを、まず思い浮かべると思いますが、免疫という我々の体にとって、なくてはならない働きをしていることを案外知らないのではないでしょうか。
この消化管の中に存在する腸内細菌が、我々の体と相互にキブ・アンド・テイクのよい関係を築きながら、免疫機能にとって重要な役割を担っています。そこで、まずは消化管の免疫と腸内細菌との関わりについて、何回かに分けてお話しようと思います。
そもそも我々の生体にとって、免疫系は非自己である異物を認識して、それを排除する生体防御機構であり、生体の恒常性(ホメオスターシス)の維持に貢献しています。
生体への病原体などの異物の侵入経路には大きく分けて3つあります(図1)。まずは皮膚から直接接触により、次に空気とともに気道から、そして最後に食物と共に口から消化管を介して侵入します。そして、それぞれの進入経路には、病原体が簡単に進入しないように、二重三重のバリアー機構が存在しています。その主役である免疫機構は複雑ではありますが、巧みに連携し機能しながら、生物学的にヒトという種の保存に貢献してきたと言っても決して過言ではありません。

さらに、我々生体の免疫系は外界からの病原体の進入のみならず、生体内で変性し死亡した細胞を処理したり、また自己細胞から変異した細胞、例えば、ガン細胞に対しても常に監視の目を光らせ、その都度、悪い芽を摘むことによって、生体内でのガン化を未然に防いでいるのです(しかしながら、ガン細胞もなかなかの曲者であり、免疫系の網の目を巧みにすり抜けて発ガンを成立させてしまいます)。
話を戻しますと、消化管は驚くことに、生体における最大の免疫系です。消化管は無数の食事由来の抗原や腸内細菌に常に曝されており、生体にとって有害なものは免疫機構で排除(正の応答)しますが、有益なもの(栄養素など)は免疫応答を起こすことなく積極的に取り込む機序(負の応答)が存在します。
前者は免疫が本来有する機構ですが、後者は経口免疫寛容(トレランス)といわれ、他の免疫系には存在しない消化管特有の免疫機構です。そして、この機構が破綻した場合には、アレルギーや自己免疫疾患などの様々な病態が起こることになるのです。
病原体センサーTLR
さて、我々の生体の免疫系には自然免疫系と獲得免疫系という2つの機構が存在します(図2)。まず、自然免疫についてお話したいと思います。これは病原体侵入に対する第一線の防御として働きます。

消化管は口から肛門までの約9mの1本の管であり、体の内部にあっても、実は外界と直接接している、いわば“内なる外”という存在であります。従って、消化管には様々な細菌やウイルスなどの病原体が侵入してきますが、その表面を被っている粘膜は柔毛構造をとっています(図3)。

これを平らにして広げてみますと、実にテニスコートの1.5倍(約260m2)、皮膚面積の200倍になると言われています。消化管粘膜にはその表面を被っている粘液が存在し、その中にはディフェンシンなどの抗菌ペプチド、ラクトフェリン、リゾチーム、インターフェロン、補体などの可溶性蛋白質が含まれており、これらが病原体の膜構造を破壊したり、代謝を阻害したりして、抗菌作用を発揮します。
さらに、病原体が粘膜内に侵入しますと、続いて樹状細胞、マクロファージ、NK細胞などがこれらを攻撃します。これまでに自然免疫における、病原体などの認識機構については、まったくのブラックボックスでした。しかし1990年後半に病原体センサーであるTLR(Toll-Like Receptor)という受容体(レセプター)の発見により、その認識機構が明らかとなってきました。
現在、ヒトでは10種類のTLRが存在することが知られています。TLRは、病原体上に存在する標識となる構造物(リガンド)に応じて、腸管上皮細胞の膜表面にあったり、腸管上皮の内腔とは反対側の基底膜にあったりします。細菌の鞭毛の蛋白(フラジェリン)を認識するTLR5は腸管上皮の基底膜に発現しており、細菌が粘膜内に侵入して初めて認識されるわけです。TLRからのシグナルは、細胞内の伝達経路を通って炎症反応を惹起して細菌をやっつけます。
免疫の司令塔・樹状細胞
次に、獲得免疫について、ご説明します。自然免疫は病原体の侵入に対する第一線の防御として働くことはすでに述べました。自然免疫には残念ながら記憶のメカニズムはなく、同じ病原体に攻撃された時に、すぐさま効率的に免疫応答を発動するためには、獲得免疫に委ねる必要があります。
そこで、司令塔としてその橋渡しをする細胞が樹状細胞です(図2)。樹状細胞は病原体の標識となる抗原を、ヘルパーT細胞という獲得免疫の主役であるリンパ球に提示しますが、T細胞にはそれを受け取る受容体(レセプター)があり、正確に情報(シグナル)が伝達されることになります。
樹状細胞によって活性化されたヘルパーT細胞はエフェクターT細胞へと分化して、一つにはB細胞を活性化して抗体というミサイルを産生する形質細胞へと、また一つには直接攻撃するキラーT細胞を作り出します。このようにある特定の抗原に対する抗体やキラーT細胞を作り出す元になる記憶細胞(メモリーT細胞)として、いざというときに備えて残留することになります。
さて、今回は消化管の免疫機構についてお話しました。次回はその中で腸内細菌がどのような役割をしているのか、また色々な病気とどうかかわっているのかについてお話したいと思います。

いとう としのり
昭和52年大阪大学医学部医学科卒業。
同60年米国カリフォルニア大学ロサンゼ
ルス校医学部外科留学、同61年テキサ
ス大学ヒューストン校医学部外科(臓器
移植・移植免疫)留学。平成2年大阪大
学医学部外科学第一講座助手、同5年
米国ウィスコンシン大学(臨床膵臓移植)
Visiting Fellow、同8年大阪大学医学部
外科第一講座講師、同9年大阪大学医
学部外科第一講座助教授、同17年1月
より大阪大学大学院医学系研究科生体
機能補完医学講座教授。主に、膵臓・膵
島移植、膵疾患(特に膵ガン)に対する外
科治療、炎症性腸疾患、補完代替医療に
関する研究を行っている。



