やっかいな「花粉症」の傾向と対策――「乳酸菌」で症状改善の試験結果
NPO法人 日本健康増進支援機構理事長
医学博士
榎本雅夫Enomoto Tadao

またまたやってきた花粉の季節。「アッ、鼻にきた」「目にもきた」という声があちこちで聞こえる。今年は花粉の飛散が昨年と比べて、関東や東北地方では同じかやや少なく、東海・北陸からの九州地方では多くなると予想されています。特に関西地方では多くなるとの情報があります。いずれにせよ、全国的には去年以上の花粉が飛散することは間違いないようです。その傾向と対策をしっかりと立てておきたいものです。
“国民病”“文明病”の「花粉症」
『鼻アレルギー診療ガイドライン』(2009年度版)によると、全日本国民の26.5%の人がスギ花粉症に罹っているとされています。他の花粉症も含めると29.8%にものぼります。ほぼ3人に1人は花粉症で悩んでいるということになります。
この花粉症は都市部ほどその罹患率が高くなる傾向があり、いまや「国民病」とも「文明病」とも呼ばれるようになってきています。鼻をグジュグジュさせたり、涙目でジッと我慢する姿は辛い上に、何をするにも意欲がそがれてしまうものです。その苦しさから解放されるなら大抵のことは我慢するというほどの症状ですから、関心の度合いも年々エスカレートしています。
この頃になると毎年、テレビや新聞、インターネットなどで花粉の飛散情報が発信されているほか、いろいろな花粉除けのグッズが売り出されたりして、マスコミを賑わすのもむべなるかなと言えましょう。
それにしても、多量の鼻みずや流涙、鼻づまりや目の痒み、そして時には頭痛や喘息などの症状に悩まされます。日常生活への影響は計り知れないものがあるのです。
「花粉症」の症状とは?
この時期に決まって集中的にわれわれを悩ませる「花粉症」とは、あるいはアレルギーというのはどのような病気なのでしょうか。花粉症のなかでも、もっとも罹患率の多いスギ花粉によるアレルギー性鼻炎を中心に考えてみましょう。
まず花粉やダニによる鼻のアレルギー反応をを総じて「アレルギー性鼻炎」と呼びます。そして花粉だけが原因の場合には「花粉症」、その花粉がスギであれば「スギ花粉症」と言われるわけです。特にスギ花粉は毎年2月から4月ぐらいにかけて多く飛散します。

スギ花粉の電子顕微鏡写真 ヤケヒョウヒダニ(♀)の電子顕微鏡写真(提供・高岡正俊)
私たちの身体は、人体にとって異物を感じると、排除すべき物質として反応するという動きを生じます。花粉症の原因物質である花粉が鼻の穴から体内に入ろうとすると、ちゃんと防御するシステムが作動するのです。それが、クシャミであり鼻みず、鼻づまりなどの状態なのです。
クシャミは、爆発的な風圧で鼻から入ろうとする異物を鼻粘膜から体外に吹き飛ばすための身体の反応です。そして鼻みずや鼻づまりも、異物が体内に入らないようにするためのシステムと考えられます。
花粉症とは花粉によって起るアレルギー症状であり、本来であれば無害である花粉を私たちが身体に備わっている免疫システムが、細菌などの有害物質と誤認し、攻撃することによって自分の組織も傷つき炎症を起こしてしまう病気なのです。人体が自らの健康体を必死に守ろうとしている有益な反応なのですが、私たちの日常生活において辛い状態を引き起こしている原因でもあるわけです。
「花粉症」の増加要因
これほど多くの人が罹っている花粉症も、学術的に見れば比較的新しい病気です。日本では1961年に荒木英斉先生がブタクサの花粉症を報告したのが最初です。そして現在、最も問題になっているスギ花粉は、斎藤洋三先生が64年、東京オリンピックの年の春に栃木県の日光地方で鼻や目などにアレルギー症状を示す21例を報告したのが第1号となります。その後、毎年のようにさまざまな花粉症が報告されています。
最初の例から半世紀近く経ったいまでは、150万倍以上の3500万人の人が花粉症に罹っているのです。
なぜ、ここまで花粉症が増加したのでしょうか? このテーマは、非常に難しくさまざな要因が含まれていると考えられています。
現在、推定されている要因には、?飛散しているスギ花粉そのものの増加、?大気汚染、特にディーゼル車が排気するガスの中の微粒子(DEP)、?ダニによるアレルギーが増加することによりアレルギー体質の人が増え、それが引き金となってスギ花粉症も増えたこと、?食生活の変化、?清潔志向によって細菌との接触機会が減少したこと、?抗生物質の乱用による腸内細菌叢の撹乱、などが考えられています。
確かに30?40年前の食事内容と現在を比較してみれば、大きく変化していることは明らかです。そして、テレビや新聞・雑誌などのマスコミでは、この変化が生活習慣病の原因だとして問題視されています。しかし、生活習慣病にとどまらず、花粉症にも影響を与えていることが指摘されています。
清潔志向と抗生物質の乱用によって、私たちは細菌と接触する機会を極端に減らしています。細菌感染症の減少と反比例するかのように、アレルギー疾患が増加してきたことが報告されているのも事実です。
つまり花粉症の増加は、生活の近代化によってもたらされたと言っても過言ではありません。
「花粉症」の治療方法
治療には大きく分けて、アレルゲンに着目する原因療法と症状の発症を抑制する対症療法の2つに分けられます。
対症療法の代表は薬物療法です。化学伝達物質遊離抑制剤、抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン拮抗薬、ステロイドや抗コリン薬などさまざまな種類の薬剤があります。耳鼻咽喉科や眼科に行くと、症状に合わせて効果的な薬剤を処方してもらえます。
原因療法は、アレルゲンの除去、すなわち、予防と言えるでしょう。外出時にはマスクやメガネをつけ、毛羽だった服を避ける、洗濯物や布団は外に干さない、帰宅時には衣服や髪の毛をよく払う、掃除をマメに行うなどがあげられます。
また完治を目指す治療法として、減感作療法というものがあります。アレルゲンを少しずつ定期的に体内に投与(注射)して、身体をアレルゲンに慣らしてしまおうという方法です。確かに完治する唯一の治療方法とされていますが、アレルゲンを週に1?2回、何年にもわたって注射し続けなくてはいけません。根気と時間の余裕が必要な治療方法です。
これらの治療法以外にも、外科的手術もありますが、あまり一般的とは言えません。
花粉症の自然治癒率は、いくつかの報告がありますが、いずれも3%以下と非常に低くなっています。そうなると、何らかの治療を行わないと、毎年、鼻や目のさまざまな症状に悩まされ続けるわけです。
「花粉症」を食べて治す
前述したように、清潔すぎる環境による細菌からの隔離、抗生物質による腸内細菌叢の乱れがアレルギーの原因の一つではないかと考えられています。
実際に、イギリスのウェールズ大学のJ.Hopkin教授は数万人の調査から、2歳までに抗生物質を投与された人は、12歳の時点でアレルギー疾患になる確率が6倍にもなることを報告しています。また、ヨーグルトや乳酸菌飲料、乳酸菌のサプリメントを食べることにより、喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症が改善されたということが数多く報告されています。
そこで、NPO法人日本健康増進支援機構、南京医科大学耳鼻咽喉科および京都大学医学研究科では、積極的に細菌の成分を体内に入れてアレルギーを予防・改善しようという考えから、細菌によるアレルギーの改善効果についての試験を行いました。
試験に用いた細菌は、ニチニチ製薬株式会社が製造している乳酸菌「LFK」です。このLFKは乳酸菌を溶解・殺菌した菌体成分で、花粉症および通年性アレルギー性鼻炎の患者さんたちに4週間飲用した結果、医薬品のように症状が消えるということは無かったものの、十分に改善が体感できるレベルであり、翌年以降、花粉症が発症しなくなった人もいたようです。
現在、この効果について物質や作用機序を調べており、近い将来、乳酸菌やその成分を食べることで花粉症のつらい症状から解放される日が来るかもしれません。





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