?大阪大学医学部附属病院、補完医療外来の1年と今後の方向性?
大阪大学大学院医学系研究科
生体機能補完医学講座
伊藤壽記教授・医学博士に聞く
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昨年7月、大阪大学医学部附属病院に全国に先駆け、週2日の補完医療外来が誕生した。困っている病者に今の医療に何かをプラスすることによって治療の効果を少しでも上げようというのが狙いだ。スタートから1年経過した現況や問題点、今後の方向性などを伊藤壽記教授に聞いた。
エビデンスを求めて、臨床試験を行う
Q 補完医療外来の現況から。
A スタートから半年間はそれほど患者さんの数は多くなかった。今年に入って約70人が来られています。診療は週2日で午後からです。がん患者さんをはじめ、自己免疫疾患、難治性の炎症性疾患や、ぜん息の患者さんなど。高脂血症や糖尿病などのガン以外の生活習慣病の患者さんにももっと来ていただければと思いますが、現状では少ない。遠くは札幌から診療に来られた方もいます。初診料は1万5000円です。
Q 予約制ですか。
A 診療時間は一応、1人30分。枠としては1人に1時間を確保しています。分かる範囲のことしかできませんが、十分な情報を患者さんに提供するため、予約制であらかじめ質問の内容をお聞きして対応しています。患者さんは積極的に聞いてこられますので、実際の診療時間は1人1時間ほどになっています。9月からは診察室も増やし朝から診療する予定です。
Q 患者さんは先生に何を聞いてきますか。
A 末期ガンの患者さんでは「こういうサプリメント(機能性食品)を食べているがどうか」、「今、この薬を服用して飲んでいるが、このサプリメントと一緒に服用しても大丈夫ですか」、さらに「何かいいサプリメントはありませんか」といった相談が多かった。
Q 補完医療外来のスタンスは、別に主治医がいて患者さんが何かと組み合わせて治療したいというときに主治医では話ができないケースが多い。そうしたときの窓口がここだと。
A 主体は患者さんを治療する主治医がいますので、私たちは患者さんにプラスアルファのアドバイスをすることになります。だけど先では主治医が補完的要素を取り入れて現行の治療に組み合わせてゆく。だから補完医療外来は現時点で過渡期的な意味合いをもつかもしれません。その先、私たちはどうなるかというと予防医学への方向性が考えられます。
Q 患者さんはどういう種類のサプリメントを食べていますか。
A 免疫を賦活すると考えられているキノコ類が多いですね。これは時に、抗ガン剤の作用を減弱することもある。だから場合によっては休薬のときにそれを食べてもらう、そういうサプリメントを食べるタイミング、またいろんなサプリメントをたくさん食べている人には『それはよくありません』という話をします。食べて何か問題が起こったとき、どのサプリメントが悪いのかわかりませんから。
Q サプリメントを食べている患者さんで、最も種類を多く食べている人は。
A 7?8種類くらい。その患者さんは最初は1種類だったが、家族や知り合いが「いいから」と紹介して増えていったと。同じ系統のサプリメントを食べている方には「一つにしたら」と言います。患者さんがいちばん長く食べているサプリメントは「体に何も変調がなければ続けてもいいかもしれない」と言っています。
Q 「先生お勧めのサプリメントはありますか」という質問は。
A それはよく聞かれますね。きちんとエビデンス(信ずるべき根拠)があれば勧めますが、現実にはほとんどなく、「エビデンスをとるために今、講座では臨床試験をしています」と言っています。
Q 補完医療から見たサプリメントの中で、乳酸菌をどう評価されますか。
A 整腸作用だけではなく腸内細菌の役目はたいへん重要であると認識しています。今後は生活習慣病全体に適用されるであろうと思います。腸内細菌は私たち人間に共生している菌です。本来、互いにいいものをギブ&テイクしています。その環境を維持するのは生命を維持するうえで必須のことです。そのバランスが崩れると、いろんなところに影響が出てきますから。
サプリメントで試される「信頼性」
Q 患者さんからはサプリメントの質問が多いようですが。
A 私はサプリメントの知識をそれほど深く持ち合わせていないので、患者さんの質問に100%答えられていませんしできない。エビデンスがないとしか答えようがないのは事実です。そのことを患者さんに伝えています。しかし患者さんは満足して帰られます。それはなぜかと考えますと、「患者さんや、ごと家族は常々思っていることを医師にじっくり聞いてほしい」というのがいちばんの思いだと感じました。患者さんはサプリメントを食べてガンが治るとは信じていない。しかし、心のどこかにサプリメントを食べたら治ると信じたい気持ちを持っています。一般の医療機関は患者さんの思いを真摯に受け止めてじっくりと聞いてあげていないのだろうと感じています。
Q これは一般の医療機関が今後考えていかなければならない大切な問題では。
A ほとんどの医療従事者はサプリメントの知識もそれを知る機会もなく、小冊子や教科書もない。そういう現状だからあやしいものは切り捨てるという考え方です。だから患者さんにとれば「医師はサプリメントはとりあってくれない」と。ひどい医師は「サプリメントのことを言うのなら、うちの病院へこなくていい」と強硬に言う。時代の流れに逆行していますが、そういう医療従事者がまだまだたくさんいます。これからは医療従事者も患者のこうした要望に耳を傾けなければいけないと思います。
Q サプリメントは種類が多い。その中で医師として学術的な裏づけのあるものしか患者さんには勧められない。
A 学術的な裏づけのあるサプリメントを患者さんに推奨できればいいが、学術的な裏付けがあるものが少ない。となると、消費者が選ぶ際に、それを製造している企業の姿勢が重要になります。つまり製造するサプリメントの安全管理と品質管理をどこまでしっかりしているかです。毎月製造されるものに生産ロット差があってはいけない。そこを徹底して管理しているかどうか。そしてサプリメントは食品ですので賞味期限があり、それをどうチェックしているかなど企業としての対応が評価のポイントになります。製薬会社で薬とサプリメントを一緒に製造している企業は、薬と同レベルで管理しているから一つの物差しになります。しかし、そうした企業は少ない。
病者用トクホで期待に応えたい
Q 補完医療外来への医師の反応は。
A 医師は日常の診療に忙しい。補完医療にたとえ30分であっても時間を割けない。サプリメントに関心を持つ患者さんがいれば聞いてあげたい医師もいらっしゃるかもしれないが、それでは日常の診療を完全に消化できないジレンマがあります。だから別の医療機関でそれをやってくれるのならどうぞと。それを否定するのではなく、専門外来へ行きたい患者さんがいれば紹介状を書き、紹介するようにしてもらえばいい。診療している主治医に言わず、こっそりうちへ来られている患者さんがいます。その患者さんには「主治医にきちんと言ったほうがいい」と言います。
Q 患者さんの話だけでは病歴が十分にわからない場合もありますからね。
A そうです。それに臨床試験に入っていただこうとすれば、それなりにデータを出してもらって、主治医の先生にも理解してもらう必要があります。現在開始しようとしている非アルコール性肝疾患、いわゆる脂肪肝の臨床試験では、最初の3カ月は脂肪肝である確認作業をして食事や栄養摂取の生活指導をします。それから身体計測もして3カ月間、毎月1回外来に来てもらって3カ月後の再評価でも脂肪肝の状況であれば臨床試験に入ってもらう。サプリメントを食べてもらうのは3カ月間、あとの1カ月は食べずに診ます。
Q そのサプリメントはどういう種類のもので臨床試験をしようと。
A いくつか候補は挙がっています。ポリフェノールなどの抗酸化作用を有するものがそれです。今後、ウイルス性肝炎は確実に減ってくるので、メタボリックな要因での肝障害が増えてまいります。このうち、肝硬変・肝ガンへとすすむナッシュ(非アルコール性脂肪肝炎)という病態が要注意です。脂肪肝からナッシュに移行しないよう予防医学的な意味合いが重要になるでしょう。それをサプリメントで制御できないかと考えています。これはまだどこの医療機関も取り組んでいません。
Q 先生はこれからどういうことに取り組んでいこうと。
A サプリメントだけではなく、他の補完的な手段は数多い。そういうものを開発していくのは誰かに任せ、それを評価するには客観的な指標が必要ですから、そこに私は新しい技術を投入したい。あるサプリメントが効果を発揮している場合、それを客観的に評価するシステムを構築することに価値観を見いだしたい。それが阪大としてのスタンスでもあると。そういうものを使ってエビデンスを出していくのは大事なことだし、それを世の中に発信していくことも大事です。ただ大学というアカデミックな場では学部を超えた人との交流があります。それを使わない手はない。それをすべてここでやろうというのではなく、それぞれの専門家に協力していただきオーガナイズしていく。それが教室の役割ではないかと思います。
Q 先生が考えられている補完医療外来のロードマップは。
A 健常人を対象にした特定保健用食品(トクホ)があります。今後は各種病態に応じたトクホというものを出していかなくてはいけない。それについては何らかのお墨付きがいると思います。国もそういうものを推奨し、いいものは残してゆく。そうでないものは切り捨ててゆくことになる。病者用トクホという形でお墨付きを設ける。その一石を投じることを考えています。この教室では臨床データも含めて基礎的なデータを集めていきます。ガンや糖尿病、脂肪肝。その次はアレルギーですね。最近患者さんは「今、こういう化学療法をしているが副作用を軽減できないか」「しびれが出ているので鍼の臨床試験をしたい」などの要望が増えている。患者さんは少しでも快適な治療を望んでいる。そうした期待に少しでも応えたいと思っています。
いとう としのり
昭和52年大阪大学医学部医学科卒業、同60年米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校医学部外科留学、同61年テキサス大学ヒューストン校医学部外科(臓器移植・移植免疫)留学。平成2年大阪大学医学部外科学第一講座助手、同5年米国ウィスコンシン大学(臨床膵臓移植)Visiting fellow、同8年大阪大学医学部外科学第一講座講師、同9年大阪大学医学部外科第一講座助教授、同17年1月より大阪大学大学院医学系研究科生体機能補完医学講座教授。主に、膵臓・膵島移植、膵疾患(特に膵癌)に対する外科治療、炎症性腸疾患、補完代替医療に関する研究を行っている。
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補完外来 問い合わせ先 担当者/湯川
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